ペットトラブル豆知識(ペットと敷金・賃貸住宅)
現状回復義務についての基本的な考え方
「100万円請求された!」それって行き過ぎじゃないの!?





1.はじめに

賃貸住宅を退去する場合、よく言われる「原状回復義務」についてトラブルになることがあります。
特にペットを飼育していた場合、どうしても家主さんに負い目があるために、「いったいいくら負担しなくてはならないのだろう」と戦々恐々としている方も多いかと思います。
今回は、この点について「原状回復義務」に関しての基本的な考え方を述べてみたいと思います。


2.原状回復の範囲

民法上、賃貸家屋の修繕義務は家主が負っています。(民法606条)
これは、賃借人は、家賃という家屋の使用に対する対価を支払っているわけですから、これに対して家主は、賃借人に対して家屋を通常に状態で使用できる状態に維持する義務があり、そのための費用も当然ながら家主が負担すべきものだからです。

この考え方からすれば、退去時における建物の劣化については、それが、
@時間の経過に伴って通常生じるべき「経年劣化」
A家屋の通常の使用に伴って生じるべき「通常損耗」
であるとするならば、それらの費用は家賃の中に当然含まれているとみるべきで、この点について、「賃借人に負担を求めることは行き過ぎ」ということになります。

本来、賃貸住宅における原状回復とは、借主が建物に取り付けたものを外して引渡しをすることを指します。
例えば、部屋に取り付けたエアコンなどを取り外すようなことです。

これに対して、襖の張替え・畳の取替え他のリフォームに要する費用は、本当の意味の原状回復の範囲には入らないものです。

原状回復とは言っても、本来は、リフォームまでして賃貸借開始当初の状態まで戻す必要など全くないのです。

「物」である以上、自然に古くなるのは当然ですからね。

しかしながら、賃貸借契約においては、これら原状回復という名目の修繕について、賃借人がその負担をしなくてはならない旨定められていることも多いのですが、この点はどのように考えるべきなのでしょうか。
賃貸住宅においては、その契約の中で、「フローリング、襖の張替え、畳の表替え等の原状回復の費用は賃借人の負担とする」との文言が書かれているものがあります。
また、その負担については、「故意・過失を問わない」と定められていることもあります。

私法上においては「私的自治の原則」というものがあります。
いわば、公序良俗や法令の範囲内であれば、当事者がどのような契約をしようと自由であり、当事者間においてはその契約に従わなくてはならないというものです。
前記、民法第606条もいわゆる強行規定とは言えず任意規定と考えられるところから、当事者間の合意において、これと異なる契約をすることも自由に認められるところなのです。
もちろん、このような条項について当事者双方が問題と捉えないのであれば、そこに紛争が発生することはありません。

しかしながら、こういった契約条項の有効性について何らかの紛争が発生した場合、最終的には裁判で決着することにもなるわけですが、その際の判例中には下級審では有効とするものも無いわけではないものの、一般的には制限的に判示する立場が主流となっています。
それは、一般的に賃借人は家主に比して弱い立場にならざるを得ないため、このような特約を無制限に強いることは、一方的に賃借人をして不利益な立場に追い込みかねないことになるからです。
(なお、家屋の賃貸中の小修繕について、借主が費用を負担するというその特約は、家主の負担を免除する限度で有効とされています。一般に小修繕は借主、大修繕は家主と認識されている部分です。これは本来、原状回復とは趣旨が異なりますが、その場合にも積極的に借主に義務を課したものとは言えないものではあります。)

この点については、消費者契約法という法律が平成13年から施行されていますが、同法第10条には、
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を過剰する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」
とも定められております。

したがいまして、仮にこのような特約があっても、経年劣化や通常損耗等、自然に起きる損傷については、一律に借主負担とすることは出来ません。
故意又は過失等、借主に落ち度がある場合に、初めてその負担となるものと言えるかと思います。

そして、ペット飼育に起因するものは、言うまでも無く借主の「故意又は過失」によるものであり、その負担は避けられないものになってきます。
この負担はペット飼育者にとっては、義務とも言える部分かと思います。
しかし、この場合であっても、自然損耗とペットに起因するものは切り離して考えるべきものであって、修繕にかかる費用の全額の負担を求めることは行き過ぎと言えるでしょう。

この点について、ペットが絡む事件で参考となる判例があります。こちらをご覧下さい。敷金返還に関するトラブルですが、家主側が主張する金額50万円に対して、裁判所が認定した額は6万円程度でした。
(なお、賃貸借期間が非常に短いなどの、この事件特有の事情もあります。是非、判決文全文をお読みください。)
この点は、以下のような判断になってくるものと思います。
*全体の修繕費C=(自然損耗部分A+ペットによる損耗部分B)
*家主はCを負担し、借主はこのうちの一部のBを家主に支払う。

金額の設定は中々難しいものではありますが、妥当な金額となるように不動産業者や家主と交渉をして欲しいものです。
「100万円も負担させられた」などという話も聞いたことがありますが、一般的なケースでは行き過ぎとされることが多いかと思います。

なお、争いになった金額が非常に低いこと、事業主体が行政であること、毎月の家賃が通常に比して著しく低いことなど、ケースが大幅に異なるのですが、「通常の住宅使用による自然減価分が毎月に家賃に含まれているとすることは相当ではない」、とする判例もありますので参考までに紹介させていただきます。


ちなみに管理人は、10年を賃貸住宅で過ごし、多いときは20頭近い猫の飼育をしてきましたが、その住宅を引き払う際に負担したのは実費13万円でした。
当然ながら工事費用の全額には遠く及びません。
なお、これは敷金をあらかじめ返してもらった上で、最終的に家主から請求を起こしてもらって、不動産業者ではなく家主宛に直接振り込んで支払った金額です。
つまり不透明になりがちな、敷金の相殺も認めなかったのです。
(賃貸借契約に定められる敷引き契約は、一般的に有効と解されますので、この点は混同されないで下さい。なお敷引きがある場合は、費用の二重取りをされないよう注意が必要ですね。なおこの敷引き契約も、最近は消費者契約法により裁判で無効とされるケースも出てきております。)

義務は勿論果たすべきですが、それはあくまで妥当な範囲ですべきものかと思います。

私自身、賃貸住宅契約解除の際は、
@「家屋の修繕費用の内、ペットに起因するものはすべて支払う用意がある」
A「自然損耗及び経年劣化と言える部分については負担する意思が無い」
という2点にについては、
請求をもらう前に予めこちらから申し入れをしておりました。



3.国土交通省の定めるガイドライン

このような原状回復については、その範囲について以前からトラブルが多く、平成10年3月には、当時の建設省が判例等を元に一定のガイドラインを示しました。
前項2で説明した内容を具体的にガイドラインとしたものです。
以下に紹介しますので、参考にされてください。
このガイドラインの冊子は、(財)不動産適正取引推進機構で入手できます。

なお、このガイドラインは契約締結の前に考慮すべきものとされている点にはご留意下さい。既に契約が締結されている場合は、まず第一義的には契約内容を優先しなくてはなりません。
つまり、ガイドラインとは異なる契約だからといっても、直ちにその効力が無いとは言えないものなのです。ただし、この場合でも、契約の効力を争うべき余地があるものと判断できる場合もありますので、安易に妥協をしないようにしましょう。


@原状回復の定義

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧すること」

つまり、この部分に相当する場合が賃借人の負担になるわけです。
言い換えれば、通常使用に伴う自然損耗は家主の負担ということになります。
原状回復とは、賃借人が借りた当時のその状態に戻すことではないと、明確に定義したことになります。

A通常使用について

同ガイドラインでは、この「通常使用」を以下のように定義しています。

A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの

B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの
(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)

A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの

A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大する要素が含まれているもの

以上のうち、B及びA(+B)について、借主に原状回復義務があるとしています。

B経年劣化の考慮

「前記BやA(+B)の場合であっても、経年劣化や通常損耗が含まれており、賃借人はその分を賃料として支払っていますので、賃借人が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の費用配分の合理性を欠くなどの問題があるため、賃借人の負担については、建物の設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させるのが適当」
としています。

C施工単位

「原状回復は毀損部分の復旧ですから、可能な限り毀損部分に限定し、その補修工事は出来るだけ最低限度の施工単位を基本としています」
と記載しています。


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作成管理:ねこのおじちゃん


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