事案の概要
本件は,原告らが被告らに対し,猫の糞尿等による被害を発生させたことや名誉毀損行為等をしたことを理由に,これらが共同不法行為にあたるとして,損害賠償を請求した事件。
判示事項の要旨:
1 猫嫌いの人が猫の糞尿被害を訴えているのを知りながら野良猫に餌を与え続けた近所の住人の行為が違法と判断された
2 上記被害者が調停を申し立てたのに対し,訴え取下げを求める嘆願書への署名を近隣の多数住民から集めた行為が名誉毀損にあたると判断された
判決理由
<猫の餌やり行為につき>
世の中には様々な嗜好の人々が存在し,猫等の小動物を好む人も多く存在する。こうした嗜好に基づく行動の自由はできる限り尊重されるべきではあるが,一方で猫,特にその糞尿等による臭いを嫌う人も多く存在し,現代社会,特に都会においては,このような他人に不快感を与えないようにする配慮も当然要請される。
したがって,近くに猫嫌いの人がおり,自分が野良猫に餌を与えることにより付近に野良猫が集まるようになり,その結果,野良猫の糞尿により猫嫌いの人が大きな不快感を味わっていることを認識できる場合には,野良猫への給餌を中止すべきであり,給餌を続ける行為は,野良猫による被害が受忍限度を超えるものである以上は違法であるというべきである。
<名誉毀損につき>
裁判等について,その当事者や支持者が広く広報活動等をして多くの人の賛同を得ようとする行為は,もとより違法ではないが,嘆願書への署名押印を広く求めるにあたり,調停と通常の訴訟とを区別せず,同様の性質を有するものであるとの前提で,原告らが近隣住民を一方的に裁判に訴えたという内容の嘆願書をもって署名捺印を依頼して回る行為は,原告らの名誉を毀損する違法な行為であるというべきである。
被告Y4及び同Y2も被告Y3及び被告Y1の嘆願書への署名押印を求めて住民らに依頼して回る行為を容認していたものであるから,被告らは共同不法行為責任を負うべきである。
なお,被告らが調停と通常の訴訟の相違を正確に理解していなかったとしても,調停期日に出頭するなどして調停の性質を知ることは容易であったといえるから,この点について過失がある。
事件番号 :平成13年(ワ)1958号
事件名 :損害賠償等請求事件
裁判年月日 :H15. 6.11
裁判所名 :神戸地方裁判所
部 :第5民事部
判決文全文はこちらをご覧下さい。
(ペット・動物に関する法律・判例アーカイブ)
<管理人捕捉>
街中の猫に対する餌やり行為に関しての、管理人の知る限り初めての判例です。
法律上「占有」をどのように捉えるかということについての問題があり、従来、この猫の餌やり行為の責任については、中々問いにくいのではないかと言われてきた事柄でした。
これは、確かに動物の占有者の責任を定めた民法718条については、猫に対する支配可能性(管理可能性)といった部分が希薄で、単に餌やりだけでは「占有」とまでは捉えにくいとする考え方が存在するためです。
事実、奈良春日大社の神鹿訴訟の例においては、長い歴史的な背景があった上で、春日大社と奈良公園の鹿との間に密接な関係を認定、春日大社側の責任を認めているほどです。
この民法718条には、
「動物ノ占有者ハ其動物カ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 但動物ノ種類及ヒ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス」
と定められています。
この条文で重要なのは、いわゆる立証責任の問題で、占有者側に「動物の種類・性質に従って相当注意して保管していた」との立証責任を負わせ、その立証が出来ない限り占有者にその責任を認定するものです。
つまり、原告については「損害の発生の事実」だけを立証すればよいわけです。
これに対して、民法における不法行為の一般要件を定めた709条は、
「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」
と定めております。
この「故意、過失があった」ことは、裁判の通常原則どおり、原告がその立証責任を負うことになります。
つまり「損害発生の事実」のみを言うだけでは足りないわけです。
この事から、結局、動物の占有者には、相応の重い責任を課しているといえるのです。
このことは、当事者の一方に訴訟上の不利益をもたらすことになるため、「占有」という要件については、相応に慎重に判断されることになります。
このため、猫の餌やり行為について民法718条に定める占有者の責任を問うということは、そのすべてについて、必ずしも認められるものではないと言えるわけです。
(なお私管理人は、この718条に関しても、充分適用される余地があるとの考えを持ってはおります。)
しかしながら、このことによって、「猫の餌やり行為」については法律上の責任を問えないと考えることは誤りです。
「占有者」としての責任を追及することが難しいのであれば、709条等の一般不法行為を問題とすればいいからです。 なお、受忍限度の問題を持ち出す方もおられますが、本件のような餌やり行為においては「生活上当然に発生するもの」とは言えませんから、飼育しているペットとは違って、ほとんど考慮されることはないと思います。
以前、この餌やり行為については、特に愛護関係において責任を問えないと考える方も多くおられたわけですが、実際のところ、餌やりをしていた猫に起因する何らかの損害があって、その損害について餌やり行為との間に相当因果関係があるとすれば、その行為に対する損害賠償を求めうるということは至極当然とも言うべきものかと思います。
この部分は、法律云々というよりも、極めて常識的に物事を判断してもそうなるかと思います。
愛護活動とはいえ、一つの行為には相応の責任が生ずるのは当然といえるのです。
当「ペットを飼育するということ〜その法律的な責任〜」の記事においては、この点についての誤解とも言うべきものが愛護関係の一部に蔓延していた事もあって、餌やり行為についての考えられるリスクとして、この裁判が起こされる前に言及をしておりました。
計らずもこの裁判を予言するような結果になってしまい、動物愛護活動に関心を持つものとしては非常に残念ではありますが、今後もこのリスクについては、常に念頭に置いていかなくてはならないものと思います。
このことは、いわゆる「地域猫活動」の根幹に関わることです。
この活動が広く市民権を得ていくためには、決して避けては通れないことかと思っております。
この点をまず認識して、いかにトラブルにならないように活動をしていくか・・・、その視点を持つことが非常に重要と考えます。
私見ですが、自身の体験から考えるに、「避妊・去勢」「清掃」といったものを基本として、さらには近隣関係を良好に保つための近隣の人達との対話などが、とても重要なのではないかと思っております。
つまりは人間関係を重視する方向です。
なお、この地域猫活動につきましては、「ねこだすけ」さんにそのトラブル回避のノウハウがあろうかと思います。
この判例においては、「名誉毀損」に関することまで言及されており、そのトラブルの根の深さを感じます。
そこまで至らないうちに、何とか考えておきたいものです。
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