1.ペット飼育禁止の管理規約に違反して犬を飼育している占有者(賃借人)に対し飼育禁止を求めた事例
(大阪地方裁判所 平成2年10月25日判決)
判例要旨
管理規約は「専有部分において、小鳥、魚以外の動物を飼育して、他の区分所有者に迷惑を及ぼす行為」をしてはならない旨規定し、端的に「専有部分内における小鳥、魚以外の動物の飼育を禁止する」とは表現されていない。しかし、この規定は、犬猫などの動物の飼育を禁止する趣旨で定められたもので、原告の規定の運用が一貫してその趣旨で行われてきたこと、及び被告の犬の飼育が他の区分所有者に対して現実に迷惑を及ぼしていることからすれば、被告の犬の飼育は管理規約に違反するものである。
しかも、飼育禁止規定がマンション「区分所有者の円滑にして、快適な共同生活を維持するため」の自治規程であることからすれば、この規定に違反することは、このマンションの区分所有者の共同の利益に反するものである、として原告の請求を容認した。
なお、本件マンションにおいては、当時犬を飼育していたものが他にも2人いたが、一人はマンションを売却して出ていき、他の1人は他に転居した。
また、この事例では、バルコニーにサンルームのようなものを設置してそこで犬を放し飼いにしていたが、本件では問題にされていないようではあるものの、通常は共用部分であるバルコニーにそのような物を設置することは認められない。
2.ペット飼育に関して、現に飼育する一代限りに限って認める旨の規定に従って、その後に飼育するに至った区分所有者に対し犬の飼育禁止を求めた事例
(東京地方裁判所 平成6年3月31日判決)
判例要旨
被告らは、現在飼育を許されている者との対比において、管理規約の効力を否定するが、本規定が小鳥、魚以外の動物を飼育することを禁止している管理規約に違反して飼育している者がいたことに対する具体的な妥協策として、現に飼育し管理組合に登録した犬猫一代に限ってのみ飼育を認めることを総会において決議し、時の経過に伴ない、犬猫を飼育するものがいなくなるようにしたもので、現在飼育を許されている者であっても、新たな犬猫を飼育することは禁止しているのであるから、本規定の効力が被告に及ぶことは明らかである。また、犬猫の飼育に関しての原告の運用についても、右決議に違反した事実は認められない。
したがって、被告らの犬の飼育に対し、本件規定の遵守を求め、飼育をやめるよう要求することは、共同生活の秩序維持を図る原告の自治的活動としてなんら不合理ではない、として原告の請求を容認した。
3.規約を改正してペットの飼育が出来ない旨定め、規約が改正される以前からペットを飼っていた者に対して ペットの飼育の禁止を求めた事例
(東京高等裁判所 平成6年8月4日判決)
判例要旨
被告は、区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」とは、動物を飼育する行為を一律に含むものではなく、動物の飼育により他人に迷惑をかける行為で具体的な被害が発生する行為に限定され、本件マンションにおいて動物の飼育を一律に全面禁止する管理規約は無効であると主張する。しかし、区分所有法6条1項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確にした規定であり、その1棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。この共同の利益に反する行為の具体的内容、範囲については、区分所有法は明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる。そして、マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効だとはいえない。本件マンションで、改正後の管理規約において動物の飼育を一律に禁止する規定をおいた趣旨は、区分所有者の共同の利益を確保することにあったことがうかがえるから、被告が本件マンションにおいてペットである犬を飼育することは、その行為により具体的に他の入居者に迷惑をかけたか否かにかかわらず、それ自体で管理規約に違反する行為であり、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。
また、被告は動物の飼育全面禁止を定める本件規約改正は被告の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法31条1項の規定により被告の承諾が必要であり、その承諾なくして行われた本件管理規約の改正は無効であると主張する。しかしマンション等の共同住宅においては、戸建ての相隣関係に比べて、その生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であるため、他の入居者の生活の平穏を保証する見地から、管理規約により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむを得えない。もちろん盲導犬のように飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合は、当然ながら飼い主の権利に特別の影響を及ぼすといえるが、ペットに関しては飼い主の生活を豊にする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものではない。したがって、本件規約改正は被告の権利に特別の影響を与えるものではなく、その承諾は不要である。
として、原告の請求を容認した。
4.上記2と同様、ペットの飼育を現に飼育する一代限りに限って認める旨の規約改正に関し、動物の飼育を禁 止することは権利の濫用にあたるか、また、現在飼育が認められている者との比較において平等の原則に反するか、が争われた事例
(東京地方裁判所 平成8年7月5日判決)
判例要旨
被告は本件管理規約の規定のみならず、本規定が小鳥、魚以外の動物を飼育することを禁止している管理規約に違反して飼育している者がいたことに対する具体的な妥協策として、現に飼育し管理組合に登録した犬猫一代に限ってのみ飼育を認めることを総会において決議し、時の経過に伴ない、犬猫を飼育するものがいなくなるようにした管理組合の措置を知りながら動物の飼育を始めたものであり、このような本件規定に違反する行為を放置していては規律を保つことが出来ないから、本件規定に基づき、被告に対して犬の飼育禁止を請求することは、権利の濫用には該当しない。
本件規定は、当時管理規約に反して動物を飼育する者が多数存在するにあたり、将来的に違反者を皆無にするための現実的な妥協策として、当時の犬猫飼育者に配慮しながら定められたもので、現在飼育している者も新たな犬猫の飼育は禁止されているのであるから、本件規定の適用をうけるものであることは明かであり、本件規定は合理的理由があり、平等の原則には反しない。
として、いずれもペット飼育者の主張を退けた。
*文中の原告とは、マンションの管理組合の事を指します。