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◆九官鳥返還請求事件
昭和六年(オ)第一九四五号
同七年二月十六日第五民事部判決
【上告人】控訴人 被告 Iu
訴訟代理人 Is St
【被上告人】被控訴人 原告 Ss
訴訟代理人 Ik Nk
事 実
被上告人(被控訴人、原告)主張ノ要旨ハ昭和二年八月三日小樽市内ナル被上告人宅ヘ九官鳥一羽飛込ミ被上告人之ヲ捕ヘ附近ニ聞合セタルモ飼養主判明セス
其ノ後一箇月内ニ飼養主ヨリ返還ノ請求ヲ受ケサリシニ依リ爾来所有者トシテ之ヲ飼養シ来リシ処昭和五年八月二十三日被上告人不在中突然上告人(控訴人、被告)ノ妻カ巡査三名ト同道シテ被上告人方ニ来リ該九官鳥ハ昭和三年中逃失シタル上告人所有物ナリト称シテ引渡ヲ求メ被上告人ノ妻ノ拒絶セルニ拘ラス之ヲ持去リ現ニ上告人ニ於テ占有中ナリ
仍テ所有権ニ基キ之カ返還ヲ求ムト云フニ在リ
上告人答弁ノ要旨ハ本件九官鳥ハ上告人多年之ヲ飼養シ来リシ処昭和三年八月十六日何者カニ窃取セラレ上告人ハ巡査派出所ニ届出テ新聞紙ニ広吉シテ捜査シタルモ発見セス
昭和五年八月ニ至リ被上告人カ同三年八月中ニ捕獲シタル九官鳥ヲ飼養セル旨聞知シ巡査ニ伴ハレテ被上告人宅ニ至リ上告人ノ窃取セラレシモノニ相違ナキヲ確メタルニ依リ巡査立会ノ上返還ヲ受ケ占有セルモノナリ
加之九官鳥ハ民法第百九十五条ニ所謂家畜外ノ動物ニ非ス且被上告人ハ占有ノ始悪意ナリシヲ以テ同条ニ依リ本件九官鳥ノ所有権ヲ取得セスト云フニ在リ
第一審判決及原判決ハ孰レモ被上告人ノ請求ヲ認容シタリ
主 文
原判決ヲ破毀シ本件ヲ札幌地方裁判所ニ差戻ス
理 由
上告理由第六点ハ原判決ハ法則ノ解釈ヲ誤リタル違法アリ
原判決理由ニ依レハ「次ニ控訴人(上告人)ハ本件九官鳥ハ民法第百九十五条ニ所謂家畜外ノ動物ニ非サルヲ以テ被控訴人(被上告人)ハ未タ其ノ所有権ヲ取得セサル旨主張スレトモ九官鳥ハ家畜ト謂ハンヨリハ寧ロ家畜外ノ動物ナリト謂フヲ相当トスヘキヲ以テ右主張ハ何等理由ナキモノトス云々」ト説示セリ
去リ乍ラ現在我国ニ於ケル一般社会的観念上ヨリシテ九官鳥ハ野生ノモノニ非ストセラレ牛馬犬猫等ト同シク人ニ飼養セラレ愛玩用トシテ其ノ存在ヲ認メラレ居ルモノナルコトハ疑ナキ事実ナリ
而シテ九官鳥ノ家畜ナルコトハ独リ日本帝国ノミナラス外国ニ於テモ亦然リ(インサイクロペチヤ参照)
加之民法第百九十五条ノ趣旨ハ他人ノ飼養セル動物カ逃失シタル場合ニ於テ其レヲ捕獲セル者カ動物ノ種類其ノ他ノ事情ニ依リ之ヲ野生其ノ他無主物ト認ムルコト多キヲ以テ其ノ善意ヲ保護セントスル為設ケタルモノナルコト明白ナリ
従テ本条ニ所謂家畜外ノ動物ノ意義ハ即野生ニシテ通常ノ観念上無主物ト認メラルルモノヲ指スモノトスルヲ最モ適当ナル解釈ナリトス
然ルニ九官鳥ハ現在ノ我国ノ一般社会観念上野生ノ動物ト認ムルコト能ハス
如何ナル時期ニ於テ又如何ナル場所ニ於テモ将又何人ニヨリテモ必スヤ何人カニ飼養セラレ居ルモノナリト認メラルルヲ通常トスルモノナルヲ以テ即民法第百九十五条ノ家畜外ノ動物トハ之ヲ認ムルヲ得サルモノトス
然ルニ何等其ノ解釈基準ヲ示スコトナク漫然トシテ九官鳥ハ民法第百九十五条ノ家畜外ノ動物ナリトセル原判決ハ法則ノ解釈ヲ誤リタル違法アルモノトスト云フニ在リ
案スルニ民法第百九十五条ニ所謂家畜外ノ動物トハ人ノ支配ニ服セスシテ生活スルヲ通常ノ状態トスル動物ヲ指称スルモノトス
然ルニ上告人主張ノ如ク九官鳥ハ我国ニ於テハ人ニ飼養セラレ其ノ支配ニ服シテ生活スルヲ通常ノ状態ト為スコトハ一般ニ顕著ナル事実ナレハ同条ニ所謂家畜外ノ動物ニ該当セス
従テ其ノ之ニ該当スル旨ヲ判示シタル原判決ハ所論ノ如ク違法ニシテ破毀ヲ免レス
上告理由第七点ハ原判決ハ法則ヲ不当ニ適用シタル違法アリ
原判決ハ其ノ理由中ニ於テ「更ニ控訴人(上告人)ハ被控訴人(被上告人)ハ本件九官鳥ヲ捕獲当時悪意ノ占有者ナリト抗争スルモ控訴人(上告人)カ右立証ニ供スル証人(中略)ノ各証言ニ依ルモ未タ被控訴人ニ於テ本件九官鳥ハ何人ノ飼養セルモノナリヤヲ知悉シタリト認ムルニ由ナク却テ(中略)被控訴人ハ本件九官鳥ヲ捕獲スルヤ直ニ其ノ旨ヲ附近ノ者ニ告ケタルコトヲ窺知スルニ足ルヲ以テ被控訴人ハ其ノ占有ノ当時善意ナリト謂ハサルヘカラス云々」ト説示スレトモ右ハ民法第百九十五条ノ解釈ヲ誤リタルモノナリ
同条規定ノ趣旨ハ既ニ前項記述ノ通リ無主物ト認メ易キ一般野生ノ動物ヲ捕獲セル善意占有者ヲ保護セントスルモノニシテ即第百九十二条ト対立シ同条ニ於テ前主ノ占有ニ対スル信頼ヲ保護スルモノナルニ反シ本条ニ於テハ目的物ノ性質上無主物ナリト信セラレ易キ事情ヲ基礎トシ其ノ善意ヲ保護セントスルモノナリ
随テ本条適用ニ当リテハ他人カ飼養セシ家畜外ノ動物ニ対シ主観的ニ無主物ナリト誤信シタルコト並客観的ニ該動物ハ無主物ナリト誤認セラレ易キ種類ナルコト換言スレハ一般野生ノモノナルコトノ要件必要ナルコト明白ナリ
従テ仮ニ百歩ヲ譲リ九官鳥カ家畜外ノ動物ナリトスルモ民法第百九十五条ノ要件ヲ充スルニ付テハ捕獲者タル被上告人側ニ於テ該九官鳥ヲ無主物ナリト誤信シタルコトヲ必要トス
而シテ無主物ナリト誤信セリトハ即該九官鳥カ何人ノ所有ニモ属セサル野生ノモノナリト信シタルコトヲ謂フモノニシテ特定人ノ所有ニ属セサルモノト誤信シタル善意ノミナラス何人ノ所有ニモ属セサル野生ノモノナリト誤信シタル善意ノ要件必要ナルモノトス
然ルニ原判決ノ引用セル証人Nh Mj Mkノ各証言及犬上コトNm St Sy等ノ各証言ニ徴スレハ捕獲者タル被上告人ノ母ハ該九官鳥カ捕獲当時何人カノ飼養セルモノナリト認メタルモノナルコト明白ナルヲ以テ民法第百九十五条ノ要件ヲ具ヘサルモノト謂フ可シ
又一般社会通通念ヨリシテ九官鳥カ北海道否我国ニ於テ野生ノモノニ非サルモノト認メラルル以上必スヤ何人カノ所有セルモノニ属シ従テ其ノ際発見捕獲シタル場合ハ所有者カ抛棄シタルモノニ非サル以上一応ハ遺失物法第一条ニヨリ遺失物ノ拾得トシテ認ムヘキモノナルヲ以テ本件ノ如キ被上告人側ニ於テ所有者不明ナル場合ハ警察官署ニ届出スヘキモノナルニ不拘之ヲ占有領得シ居リタルハ即刑法第二百五十四条ニ該当スルモノト認メサルヲ得ス
然ルニモ不拘原審カ此点ニ関シ民法第百九十五条ヲ適用シ之ヲ保護セントシタルハ法則ノ適用ヲ誤リタルモノニシテ破毀ヲ免レサルモノト信スト云フニ在リ
案スルニ家畜外ノ動物ハ通常ノ状態ニ於テ人ノ支配ニ服セスシテ生活シ従テ無主物タルヲ通例トス
偶偶人ニ飼養セラレ其ノ支配ニ服セルモノト雖一旦逃失シテ其ノ支配ヲ脱スルニ至ラハ一般ニ無主物ナリト誤信セラルルハ免レ難キ所ナリ
於茲民法第百九十五条ハ之ヲ無主物ト誤信シテ捕獲占有シタル者カ逃失ノ時ヨリ一箇月内ニ飼養主ヨリ回復ノ請求ヲ受ケサルトキニ於テ其ノ所有権ヲ取得スヘキ旨ヲ規定シタルモノトス
故ニ同条ニ所謂善意ノ占有者タルニハ捕獲当時無主物ト誤信シタルコトヲ必要トシ飼養主アリト信シタルモ其ノ何人ナルヤヲ知ラサル者ノ如キハ同条ニ所謂善意ノ占有者ニ非ス
然ルニ原判決ハ被上告人カ本件九官鳥捕獲当時之ヲ無主物ナリト信シタル事実ヲ認定セス
単ニ飼養主ノ何人ナルヤヲ知ラサリシ事実ヲ認定シ之ヲ理由トシテ被上告人ハ同条ニ所謂善意ノ占有者ニ該当セル旨判示シタルモノニシテ此点ニ於テモ所論ノ如ク違法アリ破毀ヲ免レス
仍テ爾余ノ上告理由ニ対シ説明ヲ為サス上告ヲ理由アリトシ民事訴訟法第四百七条第一項ニ従ヒ主文ノ如ク判決ス
<平仮名混じりに変換し句読点を加えた判決文>
事 実
被上告人(被控訴人、原告)主張の要旨は、昭和二年八月三日小樽市内なる被上告人宅へ九官鳥一羽飛込み被上告人之を捕え、附近に聞合せたるも飼養主判明せず。
其の後一箇月内に飼養主より返還の請求を受けざりしに依り爾来所有者として之を飼養し来りし処、昭和五年八月二十三日被上告人不在中突然上告人(控訴人、被告)の妻が巡査三名と同道して被上告人方に来り、該九官鳥は昭和三年中逃失したる上告人所有物なりと称して引渡を求め被上告人の妻の拒絶せるに拘らず之を持去り、現に上告人に於て占有中なり。
仍って所有権に基き之が返還を求むと云ふに在り。
上告人答弁の要旨は本件九官鳥は上告人多年之を飼養し来りし処、昭和三年八月十六日何者かに窃取せられ、上告人は巡査派出所に届出て新聞紙に広吉して捜査したるも発見せず。
昭和五年八月に至り被上告人が同三年八月中に捕獲したる九官鳥を飼養せる旨聞知し、巡査に伴はれて被上告人宅に至り上告人の窃取せられしものに相違なきを確めたるに依り、巡査立会の上返還を受け占有せるものなり。
加之九官鳥は民法第百九十五条に所謂家畜外の動物に非ず、且被上告人は占有の始悪意なりしを以て同条に依り本件九官鳥の所有権を取得せずと云ふに在り。
第一審判決及原判決は孰れも被上告人の請求を認容したり。
主 文
原判決を破毀し本件を札幌地方裁判所に差戻す
理 由
上告理由第六点は原判決は法則の解釈を誤りたる違法あり。
原判決理由に依れば「次に控訴人(上告人)は本件九官鳥は民法第百九十五条に所謂家畜外の動物に非ざるを以て被控訴人(被上告人)は未だ其の所有権を取得せざる旨主張すれども、九官鳥は家畜と謂はんよりは寧ロ家畜外の動物なりと謂ふを相当とすべきを以って、右主張は何等理由なきものとす云々」と説示せり。去り乍ら、現在我国に於ける一般社会的観念上よりして九官鳥は野生のものに非ずとせられ、牛馬犬猫等と同じく人に飼養せられ愛玩用として其の存在を認められ居るものなることは疑なき事実なり。
而して九官鳥の家畜なることは独り日本帝国のみならず、外国に於ても亦然り(インサイクロペチヤ参照)。
加之民法第百九十五条の趣旨は、他人の飼養せる動物が逃失したる場合に於て、其れを捕獲せる者が動物の種類、其の他の事情に依り、之を野生其の他無主物と認むること多きを以って、其の善意を保護せんとする為設けたるものなること明白なり。
従って本条に所謂家畜外の動物の意義は、即、野生にして通常の観念上無主物と認めらるるものを指すものとするを、最も適当なる解釈なりとす。
然るに九官鳥は、現在の我国の一般社会観念上野生の動物と認むること能はず。如何なる時期に於て、又如何なる場所に於ても、将、又何人によりても必ずや何人かに飼養せられ居るものなりと認めらるるを通常とするものなるを以って、即、民法第百九十五条の家畜外の動物とは之を認むるを得ざるものとす。
然るに、何等其の解釈基準を示すことなく漫然として九官鳥は民法第百九十五条の家畜外の動物なりとせる原判決は、法則の解釈を誤りたる違法あるものとすと云ふに在り。
案ずるに、民法第百九十五条に所謂家畜外の動物とは、人の支配に服せずして生活するを通常の状態とする動物を指称するものとす。
然るに、上告の主張の如く、九官鳥は我国に於ては人に飼養せられ其の支配に服して生活するを通常の状態と為すことは一般に顕著なる事実なれば、同条に所謂家畜外の動物に該当せず。
従って、其の之に該当する旨を判示したる原判決は所論の如く違法にして破毀を免れず。
上告理由第七点は、原判決は法則を不当に適用したる違法あり。
原判決は其の理由中に於て、「更に控訴人(上告人)は被控訴人(被上告人)は本件九官鳥を捕獲当時悪意の占有者なりと抗争するも、控訴人(上告人)が右立証に供する証人(中略)の各証言に依るも未だ被控訴人に於て本件九官鳥は何人の飼養せるものなりやを知悉したりと認むるに由なく、却って(中略)被控訴人は本件九官鳥を捕獲するや直に其の旨を附近の者に告げたることを窺知するに足るを以って、被控訴人は其の占有の当時善意なりと謂はざるべからず云々」と説示すれとも、右は民法第百九十五条の解釈を誤りたるものなり。
同条規定の趣旨は、既に前項記述の通り無主物と認め易き一般野生の動物を捕獲せる善意占有者を保護せんとするものにして、即、第百九十二条と対立し同条に於て前主の占有に対する信頼を保護するものなるに反し、本条に於ては目的物の性質上無主物なりと信ぜられ易き事情を基礎とし、其の善意を保護せんとするものなり。
随って、本条適用に当りては他人が飼養せし家畜外の動物に対し主観的に無主物なりと誤信したること、並に、客観的に該動物は無主物なりと誤認せられ易き種類なること、換言すれば一般野生のものなることの要件必要なること明白なり。
従って、仮に百歩を譲り九官鳥が家畜外の動物なりとするも、民法第百九十五条の要件を充するに付ては捕獲者たる被上告人側に於て、該九官鳥を無主物なりと誤信したることを必要とす。
而して無主物なりと誤信せりとは、即、該九官鳥が何人の所有にも属せざる野生のものなりと信じたることを謂ふものにして、特定人の所有に属せざるものと誤信したる善意のみならず、何人の所有にも属せざる野生のものなりと誤信したる善意の要件必要なるものとす。
然るに原判決の引用せる証人Nh Mj Mkの各証言及び、犬上ことNm St Sy等の各証言に徴すれば、捕獲者たる被上告人の母は、該九官鳥が捕獲当時何人かの飼養せるものなりと認めたるものなること明白なるを以って、民法第百九十五条の要件を具へざるものと謂ふ可し。
又、一般社会通通念よりして九官鳥が北海道、否、我国に於て野生のものに非ざるものと認めらるる以上必ずや何人かの所有せるものに属し、従って其の際発見捕獲しらる場合は、所有者が抛棄したるものに非ざる以上、一応は遺失物法第一条により遺失物の拾得として認むべきものなるを以って、本件の如き被上告人側に於て、所有者不明なる場合は警察官署に届出すべきものなるに、不拘之ヲ占有領得し居りたるは、即、刑法第二百五十四条に該当するものと認めざるを得ず。
然るにも不拘原審が此点に関し、民法第百九十五条を適用し之を保護せんとしたるは法則の適用を誤りたるものにして破毀を免れざるものと信ずとふに在り。
案ずるに家畜外の動物は、通常の状態に於て人の支配に服せずして生活し、従って無主物たるを通例とす。
偶偶人に飼養せられ其の支配に服せるものと雖、一旦逃失して其の支配を脱するに至らば、一般に無主物なりと誤信せらるる免れ難き所なり。
於茲民法第百九十五条は之を無主物と誤信して捕獲占有したる者が逃失の時より一箇月内に飼養主より回復の請求を受けざるときに於て、其の所有権を取得すべき旨を規定したるものとす。
故に同条に所謂善意の占有者たるには、捕獲当時無主物と誤信したることを必要とし、飼養主ありと信じたるも其の何人なるやを知らざる者の如きは、同条に所謂善意の占有者に非ず。
然るに原判決は被上告人が本件九官鳥捕獲当時之を無主物なりと信じたる事実を認定せず。
単に飼養主の何人なるやを知らざりし事実を認定し之を理由として、被上告人は同条に所謂善意の占有者に該当せる旨判示したるものにして、此点に於ても所論の如く違法あり、破毀を免れず。
仍って、爾余の上告理由に対し説明を為さず上告を理由ありとし、民事訴訟法第四百七条第一項に従ひ主文の如く判決す。
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