(飼育禁止請求事件/民事)
判例要旨
ペット飼育を一代限りとする規約が平等の原則・権利の乱用に当たるか
H8.7.5 東京地方裁判所





事件の概要と判決文の抜粋

(*判決文全文の掲載をする予定です。)


東京地方裁判所 平成8年7月5日判決
 
<事件の概要>
 
管理組合Xには、管理規約に基づく細則の中に、小鳥以外の動物の飼育を禁止する定めが存在していた。
しかし、これに違反して犬猫を飼育する者がいたことから、Xは総会で当時犬猫を飼育していた組合員により構成されるペットクラブを設立し、ペットクラブの自主管理の下で、当時飼育中の犬猫一代限りにつき飼育を認める決議をした。
ところが数年後に、Yが犬を飼育するようになったため、XはYに対し飼育をやめるよう求めたが、Yが飼育を続けたため、犬の飼育の禁止と不法行為による弁護士費用等の損害賠償を求めて提訴した。

 
<裁判所の判断>
 
Xの請求を認め、Yに対し犬の飼育禁止を命じるとともに、弁護士費用の一部を不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めて、その支払いを命じた。
 
この事件では、
@Xの原告適格性
A本件規定は具体的被害が発生した場合に限り飼育を禁止する趣旨なのか
B本件規定により犬の飼育禁止を求めることは権利の濫用となるか
C本件規定は、現に犬を飼育しているものとの関係で、平等の原則に反するのか
D犬の飼育を継続するYの行為はXに対する不法行為となるか
が争点となった。
 
 
@について
 
本件の飼育差止め請求は、XがYによる犬の飼育が規約に基づき定められた本件規定に違反するとして、その差止めを求めるものであるところ、規約は区分所有者に対して効力を生ずるのであり(区分所有法30条、46条)、区分所有者は規約において定められた義務を遵守しなければならない。

規約は管理組合内部の規範であるから、そこに定められた義務は区分所有者の管理組合に対する義務であり、これに対応する権利は法人格なき社団としての管理組合に帰属する。

したがって、Xは、民訴法46条に基づき自己の名において差止め請求をすることができる。
 
 
Aについて

Yは、ペットを飼育する権利が、憲法13条及び29条によって保障された重要な権利であることを理由に、本件規定は、ペット飼育による被害がマンション内の他の住民に具体的に発生している場合ないし被害が発生する俄然性が存する場合に限り、飼育を禁止する趣旨と解されるべきである旨主張する。

ペット飼育は、飼い主が飼主として責任を果たし、愛情をもって飼育する限り、動物との触れ合いを通じて飼主及びその家族がより豊かな生活を享受することを可能にするものである。

したがって、広義においては個人の幸福追求にかかわるものということができるが、人格権、プライバシーの権利のように個人の人格そのものにまつわる権利と同一視することはできず、あくまでも他人に迷惑をかけない限りにおいてペットを飼育するか否かの決定を自由に行うことができるというにとどまる。

また、Yの本件犬に対する財産権は保障されるが、本件マンション内において本件犬を飼育することができるか否かは財産権の保障とは別の問題である。

ペットの飼育は、動物の種類、生態、飼育環境、飼育方法等により他人の権利、自由と衝突することを免れない場合がある。
公共の交通機関や施設、他人の店舗等に持ち込む場合において顕著であるが、多数の人が1棟の建物を区分所有している場合にも、各人の生活の場に不可避的に接点が生ずることとなるから同様の問題がある。

すなわち、このような建物においては、様々な価値観を有する人々が互いに節度を守ることによって一定の水準の住環境を維持し、共存していかなければならないが、ペットを自ら飼育したいと考え、又は他人がペットを飼育することに理解を示す人々があり得る反面、動物の鳴き声、臭気、体毛等を生理的に嫌悪し、あるいはそれに悩まされる人々もあり得る。

また、飼主が十分注意するにしても、動物による病気の伝染の危険等、衛生面の問題を完全に払拭することはできない。

したがって、共用部分については、ペット飼育がその用法に含まれる場合は別として、ペットの飼育のために利用することができないことはいうまでもないが、飼主の専有部分のみにおいてペットを飼育するにしても、1棟の建物の構造上他人の専有部分の利用に影響せざるを得ない場合があるから、ペットの飼育について区分所有法の規定に従い規約でその調整を図ることは当然許容される。

即ち、マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床等で隔てられているにすぎず、必ずしも防音、防水面で万全の措置が取られているわけではないし、ベランダ、窓、換気口を通じて臭気が侵入しやすい場合も少なくないのであるから、各人の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性を否定することはできない。

したがって、区分所有者は、このような区分所有の性質上、自己の生活に関して内圧的な制約を受けざるを得ない。

区分所有法6条1項は、この内圧的制約の存在を明らかにしており、その1棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、即ち建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。

そして、この共同の利益に反する行為については、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができるものとされている(同法30条)。

そして、マンション内における動物の飼育は、建物の構造上上記のような問題点があることからすれば、糞尿によるマンションの汚損や臭気、病気の伝染や衛生上の問題、鳴き声による騒音、咬傷事故等、建物の維持管理や他の居住者の生活に有形の影響をもたらす危険があることはもちろんのこと、動物の行動、生態自体が他の居住者に対して不快感を生じさせるなどの無形の影響をも及ぼすおそれのある行為であるといわざるを得ない。

たしかに、飼主が責任を持って必要な措置を十分に執れば、動物の種類、生態等によっては、このような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれを極めて小さくすることは可能であるものの、飼主の生活区域内での飼育であるだけに飼主及びその家族の良識と判断にゆだねざるを得ず、遺憾ながら規範意識、責任感、良識に欠ける者がペットを飼育する可能性を否定できない。

そうすると、居住者の自主的な管理にゆだねることは限界があり、大方の賛同を得ることは困難である。

又、具体的な実害が発生した場合に限って規制することとしたのでは、上記のような不快感等の無形の影響の問題に十分対処することはできないし、実害が発生した場合にはそれが繰り返されることを防止することも容易でないことが考えられる。

したがって、規約の適用に明確さ、公正さを期すことに鑑みれば、禁止の方法として、具体的な実害の発生を待たず、類型的に上記のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれの少ない小動物以外の動物の飼育を一律に禁ずることにも合理性が認められるから、
このような動物の飼育について、共同の利益に反する行為として、これを禁止することは区分所有法の許容するところである。

したがって、本件規定について限定解釈を加える必要はなく、本件マンションにおいて犬を飼育することは、共同生活上の利益に対する具体的被害やその漠然性の有無にかかわらず、それ自体で本件規定に違反する行為である。

 
 
Bについて

 
本件規定が定められた後、本件規定に違反して犬猫を飼育する者がおり、Xに苦情がよせられたので、Xは、現実的な妥協策として、違反者をXの管理下におき、当該犬猫一代限りでのみ飼育を認めることにより、歳月の経過とともに違反者を皆無とし、細則が遵守された状態を実現することを目的として、当時犬猫を飼育中の組合員を構成員とするペットクラブを設立し、自主管理の下で一代限りの飼育を認めることをXの総会に諮り、賛成多数で承認された。

そして、この総会決議に従い、ペットクラブが結成され、ペットクラブ規約を定め、役員の選出等を行った。

Xは、管理組合ニュースによりペットクラブの発足を全組合員に公表するとともに、ペットクラブの会員の氏名、住所、犬猫の種類及び匹数をも公表し、ペットクラブ会員以外に犬猫を飼っている者を見かけた場合には、管理事務所に届けるよう呼びかけた。

そのころ以後、新たに犬猫の飼育を開始した者で、ペットクラブ会員以外に、犬猫の飼育がXにより認められた例はない。
その後、ペットクラブの会員数及びその飼育する犬猫の数は減少し続け、いずれも半数になった。
本件マンションは、14階建ての居住用マンションであり、動物の飼育を配慮した設計、構造にはなっていない。

以上によれば、本件マンション内における犬猫の飼育を一律に禁じる本件規定を受けて、Xは区分所有者の共同の利益の保護のために、本件規定の違反者を皆無とすべく、ペットクラブを設ける一方で、ペットクラブが歳月の経過により自然消滅するように構成にして本件規定の遵守を組合員に対し求めており、その方針は多くの区分所有者の協力を得て浸透している。

Xの執ったこの措置は、区分所有者の共同の利益の保護実現を目指しつつ、既に飼育していた犬猫が寿命を全うできるように配慮した経過措置であって、その内容を公表したことと併せて十分合理的なものである。

Yは、本件規定のみならず上記の事情を知りながら、本件犬の飼育を始めたものであり、
このような本件規定に違反する行為を放置していては規律を保つことができないこととなるから、Xが、本件規定に基づきYに対し犬の飼育禁止を請求することは、権利の濫用にも該当しない。

 
 
Cについて
 
Yは、ペットクラブの会員に犬猫の飼育が認められることに比して、Yのような非会員がペットの飼育を認められないことは平等の原則に反すると主張するが、Xは、当時の飼育者に配慮しつつ、将来的に、時間の経過とともに違反者を皆無にするための現実的な妥協策として、ペットクラブを設立したものにすぎず、ペットクラブの会員も、新たな犬猫の飼育は禁止されているのであるから、本件規定の適用を受けるものであることは明らかである。
以上によれば、ペットクラブの会員にのみ、一代限り飼育を認めることは合理的理由がある。

 
 
Dについて
 
Xは、組合員からの苦情をきっかけに、Yが本件犬を飼育している事実を知ったので、Yに対し、管理規約を遵守し本件犬の飼育を中止するよう申し入れ、書面により回答するよう求めたが、期限までに回答はなかった。

その後、Xの理事長が5回にわたりYに電話で連絡した結果、Yは、Xに対し、本件犬の飼育を続ける旨回答し、その後書面でも同様の回答をした。

しかし、更に、XはYに対し、本件犬の飼育中止を指示し、中止しないときは裁判手続きをとることを通告したが、Yはその後も本件犬の飼育を中止しなかったため、Xの総会において、Yに対し法的手続きをとることを承認する決議がなされた。

この決議に先立ち、Yの妻は、「規約があることは認めるが重要とは考えていない。お互いの考え方が違うのだから仕方ない。裁判は受けて立つ。」と述べ、これはYの意向でもあった。

以上の事実によれば、Yは、本件犬の飼育が本件規定に違反する行為であることを知悉しながら、Xの再三にわたる飼育中止の要請を拒否して、本件犬の飼育を継続し、その結果、Xは弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったものである。
したがって、Yのこの行為はXに対する不法行為を構成する。

 
 
 
@の解説
本件訴訟は、区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」であることを理由として、区分所有法57条を根拠に差止請求をしたものではない。
57条による場合は、原告となるのは管理者または集会において指定された区分所有者でなくてはならず、管理組合自体が原告となるわけではない。
本件は、飼育禁止が管理規約に定めてあるという理由で差止め訴訟を提起しているため、民事訴訟法46条により管理組合自体が原告となることができる。
また、区分所有法26条4項により、管理者個人が原告となることも可能である。




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作成管理:ねこのおじちゃん


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